miracle☆orion

好きなものを好きだと言いたい。

やっぱり映画『キセキ―あの日のソビト―』が大好きですという話

『キセキ―あの日のソビト―』公開から、早いもので2年が経ちました。前回のブログはネタバレ無しでキセキの好きなところについて語ったので、今回はロケ地巡りした時の写真と、映画を観て自分なりに感じたことをまとめておきたいと思います。がっつりネタバレしてますので、まだの方は映画をご覧になってからどうぞ!

 

キセキの情景描写

 キセキという映画の奥深さを知ったのは、昨年日野市で行われた応援上映会で上映された、兼重監督のビデオメッセージを観た時でした。メモを取っていた訳ではないので、正確ではないと思いますが、以下のようなことをお話されていました。

青春時代の上がったり下がったりする心情を、日野の街並みで表現したかった。可愛い女の子と話せた時は階段を駆け上がり、上手くいかないけれどドン底までは落ちずにとどまっている状態の時は、階段の上で街を眺めている。悩みながら暗い道を歩く先に待っているのは兄で、兄に大事なことを教えてもらった結果、自分が進むべきなのはレールの敷かれた道ではないことに気付く。

情景描写に注目して改めて作品を観ると、確かに色々な道を歩いたり走ったりするシーンが出てくるんですよね。ジンが必死に作っている曲のタイトルが『the way』で、GReeeeNのデビュー曲が『道』。そして映画のオープニングは、ジンとヒデのお姉さんが実家までの道のりをひたすら歩くシーン。やはり映画全体を通して、「道」が重要な意味を持っているのだと思います。

 

グリーンボーイズの「道」

 共に音楽を楽しんでいるグリーンボーイズのメンバーは、4人で仲良く並んで歩いているシーンが多い印象です。そんな彼らが歩いていた道に、キセキのロゴマークが設置されているのはとても素敵なことですよね。グリーンボーイズの曲を流しながら車で橋を渡るのも、大変胸熱なのでおすすめです!

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サイクリングロードにロゴプレートが設置された四谷橋(日野市)

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グリーンボーイズが歌っていた河原(日野市)

そんな彼らが解散の危機を迎えるのは、大学の階段の下。暗い表情で階段を降り、仲間の言葉に耳を貸さずに去って行くヒデの姿から、いつまでも楽しいことだけをしている訳にはいかないという焦燥感が伝わってきます。

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グリーンボーイズが通っていた神奈川歯科大学横須賀市


大学の敷地内は関係者以外立ち入り禁止なので、大学周辺を歩いて彼らのキャンパスライフに想いを馳せました。キセキを口ずさむ女子高生を発見してメンバーたちが照れるシーンは、大学の前の道でした。大学のすぐ近くに高校があったので、日常的によくある光景なんだろうな……と微笑ましくなりました。


ヒデとリカの「道」

ヒデとリカが初めて2人で歩くシーンが原宿っぽいな……と思って散策していたところ、2人が手を振り合って別れた場所を見つけました。

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水無橋(渋谷区)

渋谷方面から歩いてきた2人がこの場所で別れた後、ヒデは原宿駅の方に向かっています。リカが働いているのは渋谷宇田川町のレコードショップなので、ヒデは予備校の帰りにリカのバイト先に寄り、彼女を家の近くまで送り届けたのでしょう。バイト先から水無橋までの道のりは、徒歩で約15分。2人はどんな話をしながら歩いていたのでしょうか。ヒデは「どうせ帰り道だし」と言っていますが、リカと出会う前は渋谷駅から帰っていたのでは?なんて思ってしまいました。


そんな2人が喧嘩してしまうのが代々木公園。

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リカが座っていたベンチ(渋谷区)

彼らが仲直りするまでには長い時間を要していますが、それはヒデが「ヒデって本当は何がしたいの?」という問いに対する答えをずっと探していたからなのではないでしょうか。


「心の医者になる」ために音楽をやるという強い意志を持つジンの背中を見ているヒデは、ただ楽しいというだけで音楽を続けても良いのか、悩んでいたのだと思います。実際リカと再会しても、はっきりとした答えは出せていません。それでもつっかえながら自分の正直な気持ちを話すヒデを、リカは肯定してくれた。だからヒデも、お父さんと向き合う勇気が持てたのだと思います。


ジンのように強い信念を持つ人間は一握りで、多くの人はヒデのように迷いを抱えている。それでも自分の心に素直に生きればいいということを伝えてくれているのが、GReeeeNの音楽にも通じるなぁと思いました。


それから、リカが原宿に住んでいるというのも実は重要なポイントなんじゃないかと思っていたり……。この映画は実話を元にしながらも、物語の舞台が現実と大きく異なっています。特にHIDEさんは大阪→京都→高知→東京(原宿)→福島と渡り歩いてきた方で、どの土地にも強い愛着を持っているはずなのですが、映画ではこれらの要素が削られているんですよね(話を普遍的なものにするために、敢えてそうしたのだと思いますが)。その中で原宿の要素だけが、リカに受け継がれている。原宿に住み、個性的なファッションを楽しみ、勿論音楽が好きで、「ヒデって本当は何がしたいの?」というストレートな問いを投げかける彼女が、わたしにはHIDEさんの分身……すなわち「もう1人のヒデ」に見えるのです。

 

そう思うと、代々木公園での喧嘩のシーンは、自分自身との葛藤を表現しているとも解釈出来ます。GReeeeNの歌詞は、「自分の中の自分」という存在を強く意識していることが多いんですよね。それを映画的に表現した存在がリカなのではないかと。リカがヒデ以外の登場人物と関わらないのも、誰にも干渉出来ないヒデのパーソナルな部分の象徴だからなのではないか……なんて深読みも楽しいです。

 

ヒデとジンの「道」(あるいは丘)

ヒデとジンにとって重要な情景描写は、「道」のほかに「丘」があると思います。2人の実家はかなり急な階段を登ったところにあり、ジンの書いた歌詞の中にも「風吹く丘の上」というフレーズが出てきます。丘の上は2人にとって安心できる場所であると同時に、夢のために何時か旅立たなければいけない場所です。

 

特に象徴的なのが、家出したジンの荷物をヒデが持ってくる場面。「勉強頑張れよ」と言ってトシオと共に車で丘を降りるジンと、1人で丘の上に戻っていくヒデ。プロのミュージシャンと医者、2人が別々の道に進むことを決定づけるシーンになっています。この後に日野の街並みが映し出されるのですが、曇っていて薄暗いんですよね。これは車で走り去る(=夢に向かって疾走する、遠い存在になりつつある)ジンに対して寂しさを覚えるヒデの心情と、この先のジンの道が決して順風満帆ではないことを表現しているのかなと思いました。このシーンの直後にリカと並んで歩くシーンが来るのも、振り返って手を振ってくれるリカ(=自分に寄り添ってくれる存在)に、ヒデが救われているように見えます。

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ヒデがジンの荷物を持ってきた場所(日野市)

また、この場所は映画本編だけでなく、ノベライズ本の表紙などに使われている写真にも写っているんですよね。この写真でヒデはガードレールの上に乗り、ジンはその隣に立ち、それぞれ別の方向を見ている。でもこの写真のアナザーカットでは、2人はガードレールに座って会話をしているんです。

GReeeeNを続ける決意をした後、ヒデはメンバーともリカとも仲違いした場所(大学の階段の下、代々木公園)に戻って仲直りをしています。ヒデとジンが同じ道を歩む為には、ジンが車で走り去ったあの場所まで戻る必要があったのではないでしょうか。

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兄弟喧嘩をした場所(川崎市八丁畷駅前)

映画冒頭でお姉さんが歩いている道は、「ヒデが本来進むべき正しい道筋」を示しているように見えます。兄弟喧嘩の後、ヒデは姉と同じルートを途中まで辿るものの、ジンのマンション目掛けて疾走することを選びます。この時のヒデの心情が、「正しい道か誰もわからないけど」という『道』の歌詞とリンクしているように感じました。

迷いを断ち切ったヒデが『キセキ』の歌詞を書き始めるシーンは、ジンが『声』のアレンジを始めるシーンと対になっています。一足先に丘から降りて、どん底に落ちそうになりながらも、暗闇の中で光を掴んだジン。丘の上で自分を見つめ直し、自らの足で進まなければいけないことに気付いたヒデ。


メンバーやリカとは並んで歩いているヒデですが、実はジンと並んで歩くシーンは本編中に見当たりません。トシオの車で去るジンを見送るヒデ、売野さんに認められて人目を憚らず疾走するジン、喧嘩して別方向に去るジンとそこから動けないヒデ、ジンのマンションに向かって走るヒデ、ヒデと電話しながら1人で夜道を歩くジン……。そんな2人がラストで漸く、一緒に丘を降りて未来へと進んでいく訳です。


ヒデに荷物を持ってきてもらった時とは違い、ジンは堂々と実家の前までヒデを迎えに行きます。そして父との対面。緊張した面持ちで対峙する2人に、父は音楽をすることを認めてくれます。


この映画は「二つの夢を追いかけた若者たちの、本当にあったキセキの物語」です。それは「歯医者」と「ミュージシャン」という夢を叶えたヒデたちだけでなく、「誰かに必要とされる音楽を作ること」と「父親に認めてもらうこと」を両方叶えたジンのことも指しているのだと思います。お父さんがGReeeeNの正体に気付いているのかは解釈が別れるところですが、やはり2人の音楽を認めて欲しいなと思うので、気付いていて欲しいですね……。


ラストの場面が実家であることから、そこが2人の道の始点であり、いつでも帰りを待ってくれている場所でもあることが伝わってきます。GReeeeNの『遥か』を思い出すなぁ……と思いましたが、そういえば実家のリビングに飾られているのは『遥か』のジャケット写真でしたね!?そう考えるとやはり、作品の中の至るところにGReeeeNのメッセージが散りばめられているんですね……。

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ひの煉瓦ホール(日野市)

こちらはエンドロールで4人が歩いている通路。応援上映の会場がこちらのホールだったので、実際に歩くことが出来ました……!青春の道を駆け抜けてきた彼らが、最後はファンの方を目指して歩いてきてくれるところに愛を感じます。そしてグリーンボーイズの初ライブを寂しげに見守っていたジンが、今度はプロデューサーとして頼もしげに彼らの背中を見送っているのもグッときました。

 

長々と書いてしまいましたが、この記事を書きながらも新たに気付くことがあって楽しかったです。それだけ丁寧に作られている、味わい深い作品なんだなぁと改めて思いました。この作品に出会えて本当に幸せです!!まだ足を運べていない場所もあるので、これからもまったりとロケ地巡りしたいです。 

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キセキの打ち上げでも飲まれたらしい日野市の地ビール。美味しかったです!